流行の最先端は稀有に映る

うちの研究室の教員たちのファッションは、お世辞にもお洒落とは言い難い。

教授はスーツ姿が多いものの、それ以外の時は見慣れたシャツやポロシャツのヘビーローテーション

准教授はヨレヨレのシャツばかりという印象である(上に白衣を着ていることがほとんどなので実は違うのかもしれない)。

助教はTシャツに短パンで今から海水浴にでも行きそうな時もある。

学生は学生で、ジャージで一日過ごす人もいるので、研究室全体としてファッションには疎い。

それはそれで、理系の研究室だから仕方のないことだ。

 

しかし、そんな研究室でも時代の最先端を走ることがある。

それは紫外線対策である。

准教授から始まったことであるが、今では教授も美意識が高まっているのか、昼休みに学食に行く時には2人並んで日傘を差す

お洒落とは程遠い2人の姿は異様に映る。

それでも、研究でも、ファッションでも、時代の最先端をいく者は何かと後ろ指を指されてきたはず。爆売れという日傘業界も2人をパイオニアとして拝みに来るに違いない。たとえ、日傘にフリルが付いていたとしても…。

本気

ポストドクター等一万人支援計画(別名ポスドク一万人計画は、2000年度に終了した文部科学省が策定した5年計画の施策であるが、これにより博士課程または博士後期課程を修了して学位を得たにもかかわらず、正規の職に付けていないポスドク問題」が生じている。

その昔、尊敬の念を込めて言われていた「末は博士か大臣か」という言葉は、今となっては死語であり、自虐的に言うことさえあるようだ(他方の大臣の評価が低くなったせいもあるとは思うが)。

 

長い年月をかけ、苦労に苦労を重ねて学位をとったとしても、うちの研究室のように教員同士の仲が悪く、自身の研究ができず上から理不尽な要求が降ってくるような大学教員になろうと思えるわけがない。

しかしながら、この状況を知ることになるのは研究室に配属されてから数ヶ月は要するので、研究への期待を持って所属した当初の面談では「博士課程への進学も考えています」と告げる先輩が多かったようだ。

 

博士課程に行くということは、学費という経済的な問題もあるし、社会へ出るまでの時間的な問題もある。単純に考えれば、大学の4年間に加え、修士課程が2年間、博士課程が3年間だから、大学卒業後計5年間も通わなくてはならない。

同級生が働き出し、結婚や出産の話も聞こえてくる中、5年間黙々と実験に明け暮れなければならない、というのは正直きつい。

しかし、5年間から4年間に短縮する方法がある。

それは、学位申請に必要な英語の投稿論文をインパクトファクターが高い雑誌に載せることである。規定以上のインパクトファクターの雑誌に受理されれば、博士課程2年間で修了できる。

これに目を付け、博士課程に進学させようとしたのが、うちの教授である。

「私達が本気を出せば2年で修了できますよ」という文句で博士課程への進学を勧めていたのだ。

うっかり騙された先輩方は、「早く本気を出してくれよ」と嘆いたのは言うまでもない。

教授がこの研究室に来て早9年。その間、博士課程を2年間で終えるだけのインパクトファクターを持つ雑誌に論文を出せていない。未だ本気を出していないのか、それとも本気を出してもそれだけの指導力がないのか。

学生実習 2

先輩方が学生主体で学生実習を回していた頃は、学生実習後の打ち上げは当然学生だけの飲み会だった。豪勢に山の上のホテルへ行った話なんていうのも聞いたことがある。

それが、大人の事情か、気まぐれかわからないが、いつの年度からか准教授が指揮を執り出してからは、打ち上げに「私も当然呼ぶんでしょ」と参加したがるようになった。そんなに学生の輪に入りたいのだろうか。

学生と密に接したいのは、学生実習後の報告にも現れている。7日間ある学生実習が始まると、その日が終了した後1時間以内に准教授宛てに「①3年生から受けた質問、②自分が困ったこと(準備不足あるいは不足の事態などで)、③3年生のトラブル、失敗、腹が立ったこと、④よかったこと」原文ママ)を報告しなければならない。報告を受けた後に准教授がまとめる手間や、研究室内の情報共有、報告忘れへのリマインドを考慮したら、研究室全体のメーリングリストで流した方が早いと思うのだが、あくまで個人宛に送らせる。

研究室の学生との接点 ―― これが、准教授が学生実習に掛ける理由の一つだろう。

 

ただ、この理由だけでは弱く、学生実習中こそが力を入れている理由ではないだとうか。

学生実習中、それぞれの班を回るのはいいが、目を付けた女子学生の班だけ滞在時間が長い。教員であっても人間だから好き好きがあるのはわかるが、あまりに露骨過ぎてその学生に申し訳なくなる。それだけならまだしも、「君、前に会ったことあるよね?」と平成も終わり令和になった時代に昭和臭が漂う口説き文句を学生実習中に言ってしまうのだ。学生側はどう反応していいか困惑せざるを得ない。

外見に違わず女好き ―― 准教授が学生実習を張り切る最大の理由に違いない。

 

学生実習 1

年号が変わった今年の長いゴールデンウイークも終わり、いよいよ学生実習の準備が本格化する時期になった。すでに朝礼などでは学生実習の話が出ているが、実際に手を動かし、結果をその都度報告しなければならない

「学生実習はいつから始まるのか?」

何も知らなければ来週ぐらいを予想するのではないか。

実習内容にもよるとは思うが、別の大学にいる高校時代の友達によれば、一週間前から始めることがほとんどだと言い、一度プレ実習を行い、問題がなければその後はもう本番らしい。そんな日程は、うちの研究室では考えられないことだ。うちの研究室が担当する学生実習は6月下旬から7月上旬にかけてであり、なんと2ヶ月近くも準備期間に充てるのが最近の習わしになってきた。

「なぜ、ここまで頑張らなければいけないのか?」

この問いに答えられる先輩はおらず、音頭をとっている准教授に従うだけなのである。「学生実習の前にプレ実習を行うだけでいいじゃん」と誰しも思うのだが、それでは研究室として面目が立たないようである。それならそれで、学生実習と同じ方法をプレ実習やその前のプレプレ実習でもさせればいいのに。その辺りの詰めの甘さは准教授ならではある。

 

准教授が赴任してきた当初は、学生実習には目もくれず、学生実習の期間中に実習室に来たかと思えば、実習で使用している研究室の機器を使いに来ただけだったらしい。「邪魔しに来たのかよ」と先輩たちの間で総突っ込みが入ったのは言うまでもない。

学生実習に掛ける准教授 ―― その理由は学生実習中と学生実習後にあるかもしれない。

研究テーマとキーワード

研究室を変えるときというのは、修士課程に入るときか、博士課程に入るときしかない。途中で変更する人も中にはいるが、研究室の主任に不幸があったとか、研究室内の男女関係のもつれ、教員とのハラスメント問題など、基本的には大事となって否応なしにという感じだろう。

卒研のテーマと違った研究テーマに興味を持ち、修士課程から研究室を変える場合、インターネットで関連する研究室を検索する方法が一般的だろう。研究室のホームページに書かれている内容を頼りに、いくつかの研究室を選び出し、さらに地理的条件等を加味して絞っていく。この時点においては、研究室のホームページに書かれていることが、研究室選びを最も大きく左右する要因の一つとなる。そのため、研究室のホームページに正確な情報が載っていないと、研究室選びを誤ることになる。

うちの研究室のホームページには、「研究テーマ」「キーワード」を挙げている。研究テーマに関して言えば、疾患の発症メカニズムの解明と予防・治療法、早期診断法の開発と大まかに書いているので、特に問題はない。一方、キーワードに関して言えば、かなり嘘が入っている。全部で5個挙げているものの、研究室として現在も継続して行っているのは、ほとんどなく、強いて言うと1個掠る程度である。公益社団法人日本広告審査機構JAROが注意している「うそ、大げさ、まぎらわしい」にぴったり当てはまる。

研究室見学に来た場合は直接教えてあげることもできるが、研究室のホームページから「うそ、大げさ、まぎらわしい」表現を学生が訂正することは不可能である。そのため、研究室を選ぶときには研究室のホームページを参考にしつつも、「うそ、大げさ、まぎらわしい」表現に留意し、実際に足を運んで研究室に所属する学生たちに話を聞くことが重要だと思う。更新されていないホームページ同様、見栄えのいいホームページは要注意である。

退官記念講演会

桜が咲き始めた頃の年度末、定年を迎えて退官される先生方の記念講演会が行われた。

一般に、学内外において著名で、業績がある先生の場合は、普段の講義で使われる教室で行われる単なる講演とは異なり、大きな会場を借りて休日に行われる。その規模は、退官される先生の業績や人望によるところが大きく、日本全国から同僚や弟子、卒業生が参集することもある。

 

先日、大学近くの会場で行われた退官記念講演会は非常に盛大であった。

講演後に贈られた在校生からの花束には、感謝と敬意が込められていた。

 

さて、うちの研究室の教員はどうだろう。まだ定年までには時間があるとはいえ、准教授や助教がそもそも教授になれるか怪しいものだし、教授は大学着任後の実績は一般的な助教以下だ。数名のテクニシャンを雇う能力があっても結果を出せないのだから、研究者とは到底言えない。「研究がだめなら人望は」というと、パワハラ気質で差別もちらほら。博士課程への進学を目指して研究室に入った先輩方は、1年も持たずに方向転換し、就職へと進路を変更することから、人格者とは言い難い。

そう思うと、いずれ迎える退官記念講演会は行わず、ひっそりと隠居した方がいいような気もする。見栄っ張りの教授のために、准教授が大きな会場を借りたとしても参加する人はその時にいる研究室のメンバーぐらいで、卒業した先輩方は9割方来ないだろう。苦肉の策として、教授想いの准教授がさくらのアルバイトを雇うのかもしれない。

セミナー 3

うちの研究室のセミナーには、文献紹介はあるが、研究報告がない。研究報告はセミナーでは行われず、毎週のディスカッションと半年に一度の中間報告会で行われる。その代わり、学会の後には学会報告が行われる場合もある。

 

学会報告では、全国規模の学会の場合には5題、支部会の場合には3題ほど学会で発表されていた演題を紹介しなければならない。学会に参加していない学生にとっては、非常に有用な情報であり、大変そうではあるが参加してみたいと思わせてくれる。

 

面白いのは、紹介する演題数である。昔はもっと少なかったようなのだが、教授が知り合いから「〇〇先生、それは少ないですね」とお酒の入った場で軽く言われた一言で増えてしまったらしい。外からの評価を異様に気にする教授らしい対応と言えばそれまでである。

 

逆に面白くないのは、教員が紹介しないことである。教員は行ったら行っただけで御終いとなり、研究室へのフィードバックはない。不参加の学生への還元や、参加者もすべての演題を聴いているわけではないので情報共有を目的とするなら、紹介する演題は多ければ多いほどいいはずである。

一度だけアメリカで開催された国際学会については、教員だけで参加したこともあり学会報告があったようだ。最近それがないのは、教員が国際学会に参加していないことも影響しているのかもしれない。学内のホームページに列挙されている業績リストを見ると、5、6年はアメリカやヨーロッパで開催されるような国際学会に行ってない。この研究室の停滞度合をよく表している。